日々ご苦労されている中小企業の人事労務担当者さまへ
労働基準監督署の調査対応の経験談を一般化した表現に変えてお伝えします。
参考にしていただけることがあれば幸いです。
指導票
先だって(平成18年頃)のA事業場に対する労基署の調査では是正勧告に基づいて是正を行い、是正報告書が監督官に受理されました。
これでひと段落ついたと思いきや、その場で担当の監督官から「指導票」なる書面の提示を受けました。
「えっまだ続くんですか?」思わずつぶやいてしまいました。
監督官からの説明は、この「指導票」の内容について改善措置をとり、指定の期日までに報告するようにとのことでした。
「指導票」に記載された指導事項は以下の内容でした。
1.営業労働者については、事業場外労働のみなしの制度を適用していたとしても、仕事の業務量が客観的に所定労働時間内に終了することが明らかである場合を除き、事業場内で労働した場合には、みなし時間とは別途に労働時間の把握、時間外割増賃金の支払いが必要であることに留意すること。
2.上記1により把握した労働時間について、その実績を、把握を始めてから3か月間、対応する賃金台帳と併せて、月一回定期的に報告すること。
当時私は、社会保険労務士試験の学習を始めていたので、この書面内容の言わんとすることは、ある程度理解できました。
しかし、直感的にこの改善は容易ではないと思いました。
この当時は、まだ「働き方改革」という言葉もありませんでした。
実際のところ社内での社員に対する人事評価は、業績を上げてナンボという意識が強かったと思います。
事業場外労働のみなしの制度適用はムリ
「指導票」の書面上の意味だけ理解できても改善の実務は進みません。
私の頭に浮かんだのは、この改善措置は一筋縄ではいかないなということでした。
しかし放っておくわけにはいきません。会社の上層部と相談しつつ対応することとなりました。
その際、当事業場においては、これまでの慣例による事業場外労働のみなしの制度だけでは対応できないという説明をしました。
事業場外労働のみなしの制度とは、労働者が労働時間の全部、または一部について事業場外で業務に従事した場合に、労働時間の算定が困難であるときは一定の労働時間労働したものとみなす制度のことです。
「労働時間を算定しがたいとき」には、取材記者や外勤営業社員等、常態としての事業場外労働のみならず、出張等の臨時的事業場外労働も含みます。
労働者が終業時刻後に会社に戻り業務に従事した場合の労働時間の把握については、使用者としては、帰社後の業務開始時間と業務終了時間を把握できる以上、「労働時間を算定しがたいとき」とはいえず、労基法に基づく事業場外労働のみなしの制度の適用はないという扱いになります。
当事業場の外勤の労働者の場合は、「労働時間を算定しがたい」とはいえず、日常的に事業場内での作業時間がある場合は、その時間をカウントして計算し、必要な場合は残業代の支払いが発生するということになるのです。
改善措置と報告
そこでまず、出退勤時刻の記録を残す方法を決め、その記録した時間に基づいて労働時間の把握を行うところからのスタートでした。
従来からの慣例、やりかた、体制を変えて改善の方向へ向かわせるのは難儀なことでした。
なかなか一気に解決というわけにはいきませんでしたが、その後4か月間、改善の対応をしつつ改善措置の実績の資料を持参のうえ労基署へ出向いて報告を行いました。
おわりに
この労基署調査に係る改善対応は、人事労務担当者にとってなかなかシンドイものでした。
労基署(行政)側と会社(経営者)側との異なる解釈による要求のせめぎあいで、板挟み状態といえなくもありません。というかまさに板挟み状態でした・・・。
正直なところ精神衛生上辛いものがありましたが、なんとか持ちこたえることができました。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
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