日々ご苦労されている中小企業の人事労務担当者さまへ
労働基準監督署の調査で「是正勧告」が出された場合の対応は、まず現在の違法と指摘を受けた状態を改善することです。そして、将来に向けて是正を行っていくことになります。
以下、労働基準監督署の調査対応の経験談を一般化した表現に変えてお伝えします。
参考になることがあれば幸いです。
労務調査に関する通知
時は2012年頃、B事業場に管轄の労働基準監督署から「労務調査に関する通知」が郵送で届きました。
当事業場における前回の労基署の調査から約10年経った頃でした。
調査対応は、役割分担上私が担当することになりました。
是正勧告
事前に届いた通知で指定のあった日時に、必要な書類を持参し、B事業場の管轄の労働基準監督署へ出向いて調査を受けました。
結果は、担当の労働基準監督官から出された「是正勧告書」によるところの是正を行うよう勧告を受けました。
「是正勧告書」には、労働基準法違反については、「所定期日までに是正のうえ、遅滞なく報告するよう勧告します。」という文面が記載されておりました。
労基法第37条第1項 時間外労働に対し、2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払っていないこと。
具体的には、割増賃金の算定基礎となる賃金に○○手当、△△手当等を算入していないこと。
不足額については、平成○○年○月○日に遡及して再計算の上、支払うこと。
指摘のあった事項は以上の内容でした。
上記の是正事項に関しては、指定の期間分につき遡及して再計算の上、支払いをして是正を終了しました。
是正対応
今回の是正内容につては、結果的に数年前のA事業場に対しての労基署からの「指導票」にもとづく改善指導と同様のものとなってしまいました。
A事業場における改善措置の際は、A事業場の対象労働者ついての対処と就業規則の一部変更で対応しておりました。いわゆるパッチワーク的な修正対応で済ませてしまったわけです。
本来であれば、割増賃金の算定基礎となる賃金に算入すべき手当については、他の事業場についても見直しをし、改善する必要があるか確認すべきでありました。
結果的に、以前の是正対応が不十分だったわけです。
そこで、このたびのことを踏まえて今後の是正対応をどうするか、上層部にその方向性について図りました。
これまで一部変更を重ねてきた就業規則と残業代を一定水準に抑えたい会社の意向をふまえ、賃金規程を含む就業規則を全面的に見直し、改訂することとなりました。
就業規則全面改訂
就業規則の改訂については、取引先から紹介のあった社会保険労務士事務所に依頼して進めることになりました。
社会保険労務士事務所と打ち合わせをして改訂作業を進めるのは、役割分担上私が担当することになりました。
これまでの労基署の是正対応等の経緯をふまえ、定額残業代を導入し、賃金規程に定めることにしました。○○手当、△△手当等は、その全額を時間外勤務手当相当分として支給することに改めるという内容です。
これについては、社労士事務所から時間に余裕をもって丁寧に進める必要があるというアドバイスのもと、作業にあたりました。
具体的には3か月の猶予期間をもって給与改定を行なうというものです。
対象の労働者全員に「給与改定のお知らせ」を渡し、同意書にサインをもらうという手順で行いました。それと並行して、賃金規程を含む就業規則の改訂作業を進めました。
賃金規程には、「○○手当、△△手当は、その全額につき、時間外勤務手当相当分として支給する。」と定めることにしました。
従来の賃金規程では、「○○手当、△△手当は、一定の時間外労働に対する時間外勤務手当を含む」とされており、手当における内訳が不明確でした。よって今回、「その全額につき」として区分を明確にしました。
その他の規程を含む就業規則の改訂を済ませ、労働者代表の意見書を添えて社労士事務所経由で労働基準監督署へ届け出ました。
「給与改定のお知らせ」による通知後、対象労働者全員の同意書の回収を終え、その3か月後から給与改定実施の運びとなりました。
上記のように定額残業代を手当で支払う場合は、就業規則(賃金規程)に明確に定めることが大事です。
もし、当該定額残業代に問題があると指摘され、遡及払いを命じられたときに「○○手当は定額残業代である」と説明できるようにしておく必要があるからです。
それと、定額残業代導入後においては運用上、注意すべきことがあります。
それは、時間外等の割増賃金を他の手当等に含めて定額払いする場合には、定額払いされた金額が、実際の労働時間に対し法定の率で計算した割増賃金に満たない場合には、差額の支払いを行う必要があるということです。
つまり、定額払いをすれば残業代が発生しないということではありませんので、そこは間違えないようにしないといけません。
まとめ
労基署調査の対応をするなかで、従来の社内の慣例、規程の解釈や運用で問題が浮かび上がることが何度かありました。
私が担当したこれまでの一連の人事労務に関する業務において、就業規則の全面的な改訂に携われたことは、実務経験として大きな自信となりました。
この当時私は、社会保険労務士試験の合格を目指していた時期で、テキストで学んだ知識を実務で活かすという経験をすることができました。
まさに、実際に経験を積むことの大切さを実感した次第でした。
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